東京高等裁判所 昭和26年(う)4176号 判決
刑事訴訟法第三十六条、第二百七十二条、刑事訴訟規則第百七十七条、第百七十八条によれば、公訴の提起があつて未だ弁護人のない場合には、裁判所は遅滞なく被告人に対し、弁護人を選任することができる旨及び貧困その他の事由により弁護人を選任することができないときは弁護人の選任を請求することができる旨を知らせなければならないし、被告人より弁護人の選任の請求があつたときは被告人のため弁護人を附さなければならぬことが規定されているが、これはいうまでもなく、被告人の防禦権を保護するために設けられた規定であり、その被告事件が刑事訴訟法第二百八十九条所定のいわゆる必要的弁護の事件に該当すると否とを問わず、いやしくも公訴の提起があつたときは如何なる事件についても裁判所としては必ず被告人に対し前記規定による手続を履践することを要するものと解すべく、この手続を経ずして行われた裁判所の審判は、憲法第七十三条によつて保障された被告人の権利を無視する違法のものといわなければならない。
ところで本件記録を調査すると、本件は住居侵入、暴行被告事件として昭和二十六年七月二十七日起訴され、原審は同日直ちに公判期日を同月二十八日と指定し、即日その公判期日召喚状を起訴状謄本と共に被告人に送達し、右指定の期日に第一回公判を、同年八月九日に第二回公判をそれぞれ開廷し、第二回公判において弁論を終結し即日判決の宣告をしたのであるが、被告人には弁護人がなかつたにも拘らず、原審は被告人に対し前記の如き弁護人選任に関する通知もせず、又弁護人を附することもなく、終始弁護人のないままで審判を終つたことが明白である。原審のこの訴訟手続は明らかに前記法規に違反するものであり、この法規違反が判決に影響を及ぼすことはいうまでもないことであるから、原判決はこの点において破棄を免れないものである。